親族外承継を進めるときの注意点|幹部社員への引継ぎで揉めない準備
「子どもは継がないが、会社をよく知る幹部社員なら任せられる」。そう考えていても、本人にどこまで話せばよいか迷う経営者は少なくありません。社長になることへの了承と、株式代金や保証を含む負担への了承が食い違うと、準備が途中で止まるおそれがあります。
本記事は、主に非上場の株式会社を役員・従業員へ引き継ぐ場面を想定し、関係者と何を決め、どの資料をそろえるかを整理します。
親族外承継では「誰に何を渡すか」を分ける
社長交代と株式移転を同じ話にしない
親族外承継には社内の役員・従業員への承継と、社外への引継ぎがあります。今回は前者が中心です。営業や現場を熟知した社員でも、資金調達や株主との調整まで経験しているとは限りません。代表者として任せる仕事、株式の所有、取引先との関係を分け、承継前後の姿を紙に描きましょう。社長を交代する時期と株式を移す時期が異なる案なら、その間の判断権限も説明できるようにします。
中小機構の「中小企業経営者のための事業承継対策」令和7年度版も、役員・従業員への承継で資金や関係者の理解を課題に挙げています。
例えば、代表者の交代を先に進め、株式は現経営者が保有し続ける案では、後継者が決められる範囲と株主に確認する場面を共有します。どの方式がよいかは会社ごとに異なりますが、役職名だけで引継ぎの内容を表さないことが出発点になります。
後継者候補の意思は条件を示して確認する
「期待している」で終わらせず不安を聞く
候補者には、就任時期だけでなく、任せたい役割、報酬の考え方、株式の取得方針、借入や保証の現状を伝えます。即答を求めず、本人が生活や家族への影響も考える時間を設けましょう。最初の面談では、引き受けたい理由と心配な点を別々に聞くと、解決すべき課題が見えてきます。話し合った条件と未決事項は面談メモに残し、検討段階の話が確約として社内に広がらないよう、共有範囲も確認します。
本人が難しいと判断した場合に備え、候補の再検討や時期の変更も話せる状態にしておくことが、無理な引継ぎを防ぐ実務上の工夫です。
親族・株主との合意は経営と財産を分けて進める
創業家に残すものと後継者に任せるものを整理
経営者の親族が、株式や事業用不動産を持っているケースでは、後継者本人との合意だけで計画を固めないことが大切です。親族が会社に残るのか、株式を売るのか、個人所有の建物を貸し続けるのかによって、承継後の負担は変わります。将来は子どもへ戻すという構想があるなら、その前提も候補者に明示しましょう。親族の納得と、株主として必要な手続は分けて整理し、法的な合意の方法は弁護士等と確認します。
| 話し合う相手 | 先に共有する論点 | 残しておく資料の例 |
|---|---|---|
| 後継者候補 | 引受条件・権限・負担 | 面談メモ、未決事項一覧 |
| 親族・株主 | 株式・不動産・今後の関与 | 株主構成、財産の整理表 |
| 現経営者と後継者 | 引退後の役割と相談方法 | 権限分担表、承継計画 |
これは打合せ用の整理例です。資料だけで契約や会社法上の手続が完了するわけではありません。
株式の価格は「払える額」だけで決めない
売買と贈与で税金の論点を確認する
株式を有償で譲る場合、売り手には譲渡益に対する所得税等の確認が必要です。また、個人の経営者から個人の従業員へ著しく低い価額で譲ると、時価との差額が贈与とみなされる場合があります。「親族ではないから贈与税は関係ない」「時価の半分なら安全」とは判断できません。国税庁「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」は、著しく低いかどうかを個別の事案で判定するとしています。
国税庁「取引相場のない株式の評価」では、相続・贈与の評価は取得者の株主区分等で方法が異なります。その評価額を、売買価格の唯一の正解として流用しないことが大切です。移転方法と当事者、議決権構成を税理士に示し、価格の根拠と双方の税負担を整理してから合意しましょう。
売り手側では、株式の取得費を確認できる資料も探しておきます。国税庁「株式等を譲渡したときの課税」は、一般株式等の譲渡益を譲渡価額から取得費や委託手数料等を差し引いて計算するとしています。手元に残る金額と後継者の支払額を、税引き前の数字だけで比べないようにしましょう。
株式の買い取り資金と会社の運転資金を両立する
借り手・返済原資・必要時期を分けて試算
後継者が株式を買うお金と、会社が仕入れや給与を支払うお金は、分けて計画します。誰が借りるのか、返済に何を充てるのか、納税や専門家費用はいつ必要かを書き出しましょう。承継後の役員報酬を返済原資に考えるなら、本人の生活費・税負担と、会社が継続して支払える水準の両方を確認します。業績が計画を下回る場合も試算し、買い取りを優先して会社の資金繰りが詰まらない案を探します。
日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」には、承継計画や経営承継円滑化法の認定などに応じた対象区分があります。後継者個人の株式取得についても、必要な認定や資金使途、審査を窓口で確認しましょう。承継するだけで必ず借りられる制度ではありません。
北海道の季節変動がある事業なら、承継予定月の残高だけでなく、冬場の売上変動や暖房費、賞与、納税など自社で支出が重なる月も確認します。承継がなくても必要な資金と、今回追加で必要になる資金を並べれば、銀行へ相談する金額や時期を説明しやすくなります。
経営者保証は社長交代前から銀行と相談する
旧社長の保証と新社長の保証を別々に確認
代表者が交代したら旧社長の保証も自動でなくなる、と考えて計画を進めるのは危険です。金融機関別に借入残高、返済期限、担保、保証人を一覧にし、旧経営者の保証解除と後継者の保証の必要性を早めに相談します。全国銀行協会掲載の事業承継時の特則は、新旧経営者からの二重徴求を原則として行わない考え方を示しますが、例外があり、全ての保証解除を約束するものではありません。
銀行には株式の移転案と承継後の収支・資金繰りも示し、どの借入について、どの条件を満たせば見直せるかを確認しましょう。候補者には、相談中の事項と確定した条件を区別して伝えます。
引退後の役割と周囲への説明を決める
二重指揮を避け、判断を任せる範囲を明文化
承継後も現経営者が支えるなら、取引先への同行、技術指導、経営会議への参加など、役割を具体化します。「大事なことは相談する」だけでは、採用や投資のたびに判断が止まりかねません。後継者が決める事項と相談する事項、支援を見直す時期を決め、他の幹部にも説明しましょう。退職金や顧問料を予定する場合は、金額の妥当性や税務とともに、承継後の会社の支払余力も確かめます。
社員、主要取引先、金融機関への説明は、本人や株主との調整状況を踏まえて順序を決めます。候補者と同行して引き継ぐ場面を設け、値決めの考え方や取引上の注意点まで伝えると、肩書だけの交代を防ぎやすくなります。
引継ぎの進み具合は、面談を何回したかだけで測らず、後継者が自分で説明・判断できた業務を記録すると確認しやすくなります。たとえば主要顧客との商談や月次の業績説明を任せ、現経営者が後で振り返る方法なら、経験が足りない分野を次の育成課題にできます。
親族外承継の最初の相談には資料と未決事項を持つ
税務・法務・金融をつなぐ承継計画へ
相談前に、決算書、直近の試算表、株主名簿、定款、借入・保証の一覧、個人所有で会社が使う資産の情報をまとめましょう。まだ候補者に話せていなければ、その段階を率直に伝えて構いません。資料には、承継の希望時期、本人への打診状況、親族の意向、未決事項を添えます。最初から結論を出すより、誰が何を調べるかを決め、税理士・弁護士・金融機関との打合せをつなぐことが現実的な一歩です。
北海道事業承継・引継ぎ支援センターでは、役員・従業員承継を含む相談を無料で受け付けています。予約制で、遠隔地の訪問・オンライン相談等も案内されています。
前田泰則税理士事務所は、札幌・北海道全域対応。株式・税金・資金繰りを一緒に整理し、事業承継の準備を支援します。幹部社員への引継ぎを考え始めた段階からご相談ください。
【無料相談受付中】お気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報です。税務・法務・融資条件は個別事情や制度改正によって異なります。最終判断は税理士、弁護士、金融機関等への個別相談でご確認ください。
