親族内承継の心理的ハードルを超える具体策
中小企業における親族内承継では、相続税や株価評価以上に「家族に言い出せない」という心理的ハードルが大きな壁となっています。
「本音を伝えにくい」
「兄弟への遠慮で決断を先送りしてしまう」
「銀行との関係が気になる」
――こうした感情面の課題は、数字だけでは解決できません。
本記事では、税理士が第三者として関わることで、感情と数字を整理しながら親族内承継を進める具体的な方法を解説します。家族会議の進め方、兄弟姉妹との公平感の作り方、事業承継税制の活用(2027年9月期限)まで、事業承継の実務に即してお伝えします。
親族内承継が「話しにくい」本当の理由
感情と数字が絡み合うのが親族内承継の難しさ
親族内承継は、単なる株式や事業の引き継ぎではなく、親子関係・兄弟関係・従業員との信頼など多くの感情が絡みます。
中小企業経営者は「まだ自分はやれる」という想いと「そろそろ任せなければ」という責任感の間で揺れがちです。一方、後継者は「本当に自分で会社を守れるのか」「税務顧問や銀行ときちんと付き合えるか」という不安を抱えます。
この感情のギャップが、親族内承継の話し合いを先送りさせてしまいます。
北海道・札幌の中小企業に特有の事情
北海道、とくに札幌周辺の中小企業では、家族と職場が近く、生活と仕事の境界があいまいになりやすい特徴があります。親族内承継の話題を出すと、日常生活にも影響しそうで「今日も言い出せなかった」ということが繰り返されがちです。
また、地方銀行(北洋銀行・北海道銀行など)との長年の取引や地域とのつながりが強いため、親族内承継の失敗は地域の信用低下や銀行融資への影響にも直結しかねません。こうした背景が、親族内承継の心理的ハードルをより高くしているのです。
親族内承継の心理的ハードルの正体を言語化する
「遠慮」と「罪悪感」を見える化する
親族内承継では、後継者が「兄弟に申し訳ない」「親のやり方を否定している気がする」と感じ、遠慮から本音を言えないケースが多く見られます。
まずは家族それぞれのモヤモヤを紙に書き出し、感情面を言語化することが重要です。経営者・後継者・配偶者など、関係者ごとに”不安・期待・怒り・希望”を整理することで、親族内承継に対する共通認識が生まれます。
このプロセスは税理士など第三者がサポートすると、落ち着いて対話しやすくなります。
「責任の重さ」と「お金の不安」を分けて考える
親族内承継の心理的ハードルの多くは、経営責任とお金の問題がごちゃ混ぜになっていることから生じます。
会社の借入や資金繰り、銀行融資の保証人の問題などが気になり、後継者が一歩を踏み出せないことも多いでしょう。そこで、親族内承継の検討初期には、決算書や資金繰り表をもとに、現状の財務状態・銀行融資の条件・将来の返済計画を整理します。
責任の範囲とお金の問題を切り分けることで、心理的負担を軽減できます。
【比較表】家族だけ vs 税理士が介在する親族内承継の進め方
| 項目 | 家族だけで話し合う場合 | 税理士が介在する場合 |
|---|---|---|
| 感情の整理 | 感情的になりやすく、本音を言いにくい | 第三者が冷静に論点を整理し、感情と数字を分離できる |
| 数字の正確性 | 株価評価や相続税の試算が曖昧になりがち | 決算書・株価評価・税負担を正確に把握できる |
| 銀行融資対応 | 後継者が単独で銀行と交渉し、不安が大きい | 税理士同席で銀行に説明でき、信頼関係を築きやすい |
| 兄弟姉妹への説明 | 「えこひいき」と誤解されやすい | 専門家の客観的説明で公平性を担保できる |
| スケジュール管理 | 行き当たりばったりになりがち | 5〜10年の段階的承継計画を作成できる |
| 税制優遇の活用 | 特例承継計画の期限(2027年9月末※)を見逃すリスク | 事業承継税制の特例措置を最大限活用できる |
※2026年度税制改正により、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長されました。
家族会議で「話す順番」と「論点」を決める
アジェンダを決めたうえで家族会議を開く
親族内承継の家族会議は、思いつきで始めると感情的になりやすく、話がまとまりません。そこで、事前に以下のようなアジェンダを作成し、話す順番を決めておきます。
- 事業の将来像(今後5〜10年の方向性)
- 株式や持分の整理(誰がいつ何株を受け取るか)
- 相続・事業承継の税金(贈与税・相続税の試算)
- 銀行融資と資金繰り(保証人の問題含む)
税務顧問である税理士が第三者として同席すると、論点整理がスムーズになり、親族内承継の議論が前向きに進みやすくなります。
感情の話と数字の話を時間で区切る
家族会議では、まず感情面だけを話す時間を取り、その後で決算対策や資金繰りといった数字の話に切り替えるのがおすすめです。
「今のうちに言っておきたいこと」「親族内承継に期待していること」を率直に共有したうえで、次に事業承継の具体的なスケジュールや銀行融資の見通しを話し合います。
時間で区切ることで、感情と数字が混ざらず、親族内承継のハードルが下がります。
【タイムライン表】親族内承継の5カ年スケジュール例
| 時期 | 経営者の役割 | 後継者の役割 | 税理士・専門家の支援 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 家族会議で承継方針を共有 | 現場業務に専念、数字の勉強開始 | 株価評価・財務状況の整理、特例承継計画の検討 |
| 2年目 | 営業部門の権限を一部委譲 | 取引先・従業員との関係構築 | 決算対策の立案、銀行融資の条件整理 |
| 3年目 | 代表権を残しつつ取締役へ | 代表取締役に就任、経営判断の訓練 | 事業承継税制の適用申請、税負担シミュレーション |
| 4年目 | 会長職に退き、経営助言に専念 | 銀行・取引先との関係を本格的に引き継ぐ | 株式移転の実行、贈与税申告サポート |
| 5年目 | 非常勤役員または退任 | 完全に経営権を掌握、新事業の検討 | 決算対策の継続、経営者保証解除の支援 |
※スケジュールは会社の状況により柔軟に調整します。
親族内承継を進めるための「見える化」ツール
家系図+株主構成+役員構成を一枚にまとめる
親族内承継では、誰がどの立場で関わっているのかを一目で分かる資料にまとめることが大切です。
家系図、現時点の株主構成、役員構成を一枚の図にした「承継マップ」を作成すると、親族内承継後のイメージを共有しやすくなります。札幌・北海道の中小企業の現場では、この資料があるだけで兄弟姉妹の納得感が高まることも少なくありません。
こうした資料作成は税理士や事業承継専門家に依頼することで、客観的な整理が可能になります。
5年〜10年の事業承継スケジュール表を作る
親族内承継は一度にすべてを変えるのではなく、数年かけて段階的に進めるのが現実的です。
例えば、「3年かけて代表権の移譲」「5年かけて株式の移転」「毎年決算タイミングで税務顧問と一緒に見直し」など、5〜10年のスケジュールを表にします。銀行融資の返済期間や資金繰りの見通しも合わせて記載することで、親族内承継の全体像が見え、心理的ハードルも下がります。
税務顧問と銀行を巻き込んだ親族内承継の進め方
税理士と事前に「税金と評価額」を確認する
親族内承継では、相続税・贈与税・株価評価など、税金のインパクトが無視できません。
まずは税務顧問である税理士とともに、現時点の会社の評価額・将来の税金負担・決算対策の余地を把握しましょう。札幌・北海道の中小企業の多くは、土地や建物など不動産を多く保有しているため、思った以上に評価額が高いケースもあります。
2026年度税制改正により、事業承継税制の特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長されました。親族内承継の前に評価額を知り、特例措置を活用することで、税負担を大幅に軽減できます。
銀行融資の担当者にも早めに情報共有する
親族内承継の計画は、メインバンク(北洋銀行・北海道銀行など)にも早めに共有することが重要です。
後継者が銀行融資の担当者と面談し、今後の経営方針・資金繰りの考え方・事業承継のスケジュールを説明することで、金融機関からの信頼が高まります。銀行側も、親族内承継の計画が明確になっている会社には前向きに支援しやすくなります。
税理士が同席し、決算書の説明や事業計画の補足を行うことで、より安心感のある対話が可能です。また、経営者保証に関するガイドラインを活用し、保証解除や後継者への保証引き継ぎの軽減を検討することも有効です。
「後継者の不安」を減らす具体的なステップ
経営数字と資金繰りを一緒に確認する時間を作る
親族内承継の場面で、後継者が最も不安を感じるのは資金繰りの悪化や銀行融資の返済が滞ることです。
そこで、月次の試算表や資金繰り表をもとに、経営者と後継者、税務顧問の三者で現状を共有する時間を設定しましょう。数字が見えることで、「思っていたより安定している」「ここを改善すればもっと良くなる」といった具体的なイメージが持てるようになり、親族内承継への不安が軽減されます。
段階的に権限委譲し、成功体験を積ませる
いきなり代表交代や株式移転を行うのではなく、営業部門・人事・資金繰りの一部など、権限を少しずつ委譲することも有効です。
後継者が小さな意思決定を積み重ね、成功体験を得ることで、親族内承継への自信が生まれます。税理士は、決算対策や資金繰りの場面で後継者と直接対話することで、数字を通じた経営判断のトレーニングをサポートできます。
兄弟姉妹・親族との公平感をどうつくるか
「役割」と「お金」の話を分けて説明する
親族内承継では、後継者に代表権と株式が集中する一方で、他の兄弟姉妹には「不公平ではないか」という感情が芽生えることがあります。
このとき、「会社を継ぐ役割」と「相続財産としてのバランス」を分けて説明することが重要です。事業承継に関する部分は後継者が担い、個人資産や他の財産でバランスを取るなど、具体的な方針を検討します。
必要に応じて、中小企業庁の事業承継ガイド(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html)や北海道経済産業局の事業承継支援ページ(https://www.hkd.meti.go.jp/information/chusho/shoukei/)などの情報も参考にすると良いでしょう。
公的支援や専門家をうまく利用する
北海道庁(https://www.pref.hokkaido.lg.jp/)や札幌市(https://www.city.sapporo.jp/)では、事業承継や中小企業支援に関する情報提供や相談窓口を設けています。
また、北海道事業承継・引継ぎ支援センター(https://www.hokkaido-jigyoshokei.go.jp/)では、M&Aや親族内承継の無料相談に対応しています。
こうした公的支援を活用しながら、税理士・弁護士・司法書士などの専門家と連携することで、親族内承継の公平性と透明性を高めることができます。第三者の関与は、親族間の感情的な対立を和らげるうえでも有効です。
【Q&A】親族内承継でよくある質問
Q1. 兄弟姉妹間で不公平感が出ないようにするには?
A: 「会社の株式=相続財産全体」ではありません。後継者が会社の株式を受け取る代わりに、他の兄弟姉妹には不動産や現金などで調整する「代償分割」の検討が有効です。税理士や弁護士と相談し、遺言書や家族信託も活用しながら、公平感を担保しましょう。
Q2. 会社の借入金は後継者が全部引き継ぐの?
A: 必ずしもそうとは限りません。経営者保証に関するガイドラインを活用することで、後継者への保証引き継ぎを軽減したり、一定の条件下で保証を解除したりできる場合があります。銀行との交渉では、税理士や中小企業診断士が同席することで、スムーズに進むケースが多いです。
Q3. 事業承継税制の特例措置はいつまでに申請すれば間に合う?
A: 2026年度税制改正により、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長されました。ただし、実際の贈与または相続は2027年12月31日までに行う必要があります。計画から実行まで時間がかかるため、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
Q4. 札幌・北海道で事業承継の相談ができる公的機関は?
A: 北海道事業承継・引継ぎ支援センター(札幌市に拠点)では、親族内承継やM&Aの無料相談を受け付けています。また、札幌市の経営サポートセンターでも事業承継マッチング支援を行っています。公的機関と税理士を併用することで、より安心して承継計画を進められます。
親族内承継の成功事例から学べること
早めの情報共有と小さな合意形成がカギ
親族内承継でスムーズに進んだ札幌・北海道の中小企業の多くは、10年ほど前から後継者候補を明確にし、少しずつ権限を渡しているという共通点があります。
定期的に家族会議を開き、「今年はここまで進める」といった小さな合意を重ねることで、心理的ハードルが下がっていきます。また、決算のたびに税務顧問の税理士から現状報告を受け、事業承継の計画を微調整している点も特徴です。
「完璧」を求めず、進めながら修正する姿勢
親族内承継は、事前にすべてを完璧に決めるのは困難です。むしろ、大まかな方向性を決めて動き出し、状況に応じて修正していく方が現実的です。
決算対策や資金繰りの状況、銀行融資の条件変更など、環境は常に変わります。毎年の決算時に、事業承継の計画をアップデートしていくことが大切です。
親族内承継は「一度きりの大イベント」ではなく、「続いていくプロセス」ととらえることで、心理的な負担も軽くなります。
前田泰則税理士事務所が支援できること
札幌・北海道全域対応の親族内承継サポート
前田泰則税理士事務所では、札幌市内はもちろん、北海道全域の中小企業の親族内承継を支援しています。
税務顧問としての月次支援に加え、事業承継の家族会議の設計、株価評価、決算対策、資金繰りや銀行融資の整理などをワンストップでサポートします。親族内承継は税金の問題だけでなく、感情面のケアも不可欠です。
当事務所では、経営者・後継者双方の立場に配慮しながら、無理のない承継プランを一緒に考えます。
親族内承継の「心理的ハードル」を一人で抱え込む必要はありません。
【無料相談受付中】親族内承継でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。
※本記事の内容は2026年2月時点の一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する助言ではありません。税制や制度は変更される可能性があります。最終的な判断は、必ず専門家との個別相談(税理士・弁護士等)により行ってください。
