相続税の申告が必要か判断する基準|財産の棚卸しを税理士が解説
家族が亡くなった後、「わが家に相続税の申告は必要なのか」と迷う方は少なくありません。預金残高だけを見て基礎控除以下と判断しても、不動産、株式、死亡保険金、生前贈与などを加えると申告が必要になることがあります。逆に、債務や一定の葬式費用を反映すると基礎控除以下になる場合もあります。
相続税申告要否を判断する第一歩は、亡くなった方に関係するプラスの財産と差し引ける項目を、名義にとらわれず一覧化することです。本記事では、2026年8月時点の国税庁資料を基に、基礎控除の計算から財産の探し方、申告が必要な特例まで整理します。
相続税の申告が必要になる基本基準
正味の遺産額と基礎控除を比較する
相続や遺贈、相続時精算課税に係る贈与などで取得した各人の課税価格の合計額が、遺産に係る基礎控除額を超える場合、原則として相続税申告が必要です。おおまかな計算は次の順序で行います。
- 相続財産やみなし相続財産などを合計する
- 非課税財産、債務、葬式費用などを差し引く
- 加算対象となる生前贈与などを加える
- 基礎控除額と比較する
単純な「遺産総額」ではなく、税法上の評価と加減算を反映した課税価格で判断します。国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」も概算確認に利用できますが、入力漏れや個別事情には注意が必要です。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人
基礎控除額は、次の式で計算します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
法定相続人の数は、遺産を実際に受け取る人数と一致しないことがあります。相続放棄がある場合の数え方や養子を含められる人数にも税法上のルールがあるため、戸籍を確認して判定してください。
最初に作る相続財産の棚卸し表
プラス財産は種類・名義・残高・根拠資料を記録する
財産を見つけたら、「種類」「名義」「所在・金融機関」「相続開始日時点の数量・残高」「評価資料」「確認状況」を一覧にします。通帳だけでなく、郵便物、固定資産税納税通知書、証券会社の取引報告書、保険証券、確定申告書、スマートフォンやパソコンの契約情報も手掛かりになります。
| 区分 | 主な財産 | 主な確認資料 |
|---|---|---|
| 金融資産 | 預貯金、株式、投資信託、国債 | 残高証明書、通帳、取引報告書 |
| 不動産 | 土地、建物、共有持分、借地権 | 登記事項、固定資産税資料、地図 |
| 事業関連 | 自社株、貸付金、事業用資産 | 決算書、株主名簿、契約書 |
| その他 | 車、貴金属、書画骨董、暗号資産 | 査定書、購入記録、口座履歴 |
相続税評価額は、預金残高や固定資産税評価額をそのまま使えるとは限りません。特に土地、自社株、権利関係のある不動産は専門的な評価が必要です。
家族名義でも実質的に本人の財産がないか確認する
配偶者や子の名義になっていても、亡くなった方が資金を出し、通帳・印鑑を管理していた預金などは、いわゆる名義預金として相続財産に含まれる可能性があります。反対に、名義が本人でも他人から預かっていた財産である場合には、その根拠確認が必要です。
名義だけで除外せず、資金の出所、贈与契約、受贈者による管理・使用、贈与税申告の有無を調べます。過去の口座移動は時間がかかるため、早い段階で金融機関へ照会しましょう。
見落としやすい「みなし相続財産」
死亡保険金は契約関係と保険料負担者を確認する
被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、本来の遺産分割対象とは異なりますが、相続税上はみなし相続財産として課税対象になることがあります。保険証券ごとに、被保険者、保険料負担者、受取人、受取額を確認してください。契約関係によっては所得税や贈与税となる場合もあります。
相続人が受け取る死亡保険金には、500万円×法定相続人の数の非課税限度額があります。相続人以外が受け取る場合などは適用関係が異なるため、受取額全額を機械的に非課税とはしないことが重要です。国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金」で確認できます。
死亡退職金や未収金も確認する
死亡後に勤務先から支給される退職手当金等も、一定の場合にはみなし相続財産になります。会社員だけでなく、法人経営者の場合は役員退職金や弔慰金の決議・支給内容も確認します。支給前だから棚卸しから外してよいとは限りません。
このほか、未収給与、貸付金、未収家賃、税金の還付金など、死亡時点で請求できる権利も確認します。事業承継が関係する場合は、自社株のほか、会社への貸付金や会社からの借入金を混同しないように整理しましょう。
生前贈与も相続税申告要否に影響する
暦年課税の加算対象期間を確認する
生前に贈与して名義を移した財産でも、一定期間内の暦年課税による贈与は相続税の課税価格へ加算される場合があります。2024年1月1日以後の贈与については加算対象期間が段階的に7年へ延長されているため、「亡くなる3年前より前だから対象外」と決めつけられません。
贈与契約書、振込記録、贈与税申告書を年別・受贈者別に整理します。制度改正の経過期間があり、相続開始日と贈与日で取扱いが変わるため、具体的な加算額は個別に確認してください。
相続時精算課税の選択歴を調べる
相続時精算課税を選択した贈与者が亡くなった場合、同制度による贈与財産を相続税計算へ加える必要があります。2024年1月1日以後の贈与には年110万円の基礎控除が設けられましたが、過去年分と同じ扱いではありません。
本人の手元に財産が残っていなくても申告要否に影響します。過去の贈与税申告書、相続時精算課税選択届出書、贈与財産の評価資料を探し、税務署での申告書等閲覧も検討します。
財産から差し引ける債務・葬式費用
借入金・未払金・未納税金を確認する
被相続人の死亡時に現に存在し、確実と認められる借入金や未払金などは、一定の要件の下で遺産総額から差し引けます。住宅ローン、事業借入、医療費、公共料金、クレジットカード、固定資産税などを確認し、残高証明書や請求書を保存します。
保証債務や非課税財産に関する債務など、差し引けないものもあります。また、債務を負担する人の立場でも取扱いが変わるため、単に請求書の合計を控除するのではなく、国税庁「相続財産から控除できる債務」の要件と照合します。
葬式費用は領収書と支払内容を分ける
葬式費用は債務ではありませんが、相続税計算上、一定の範囲を遺産総額から差し引けます。葬送、火葬、納骨、遺体・遺骨の運搬、通常葬式に伴う費用などが対象になり得ます。
一方、香典返し、墓碑・墓地の購入、法要などは原則として葬式費用に含まれません。領収書がない支払いも、支払先、日付、目的、金額を記録し、対象・対象外を分けて管理してください。
税額が0円でも申告が必要なケース
配偶者の税額軽減を使うなら申告が必要
配偶者の税額軽減により、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで、配偶者の相続税がかからない場合があります。しかし、課税価格が基礎控除を超え、この軽減で納付税額が0円になる場合も相続税申告が必要です。
原則として申告期限までに分割された財産が対象で、申告書へ明細や必要書類を添付します。「配偶者が全部相続するから申告不要」とは判断しないでください。
小規模宅地等の特例にも申告要件がある
一定の居住用・事業用宅地等について評価額を減額できる小規模宅地等の特例も、適用によって課税価格が基礎控除以下になる場合には、原則として申告書と必要書類の提出が必要です。対象面積、取得者、同居・保有・事業継続などの要件を確認します。
北海道では土地面積が大きい住宅や事業用地も多く、固定資産税評価額だけで不要と判断するのは危険です。路線価・倍率、地積、利用区分、共有持分を確認してから判定しましょう。
相続税の申告期限から逆算して進める
申告と納税は原則10か月以内
相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。期限が土日祝日等なら翌日となります。提出先は、原則として被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署であり、相続人の住所地ではありません。
10か月の間には戸籍収集、財産調査、評価、遺産分割、納税資金の準備が必要です。不動産や自社株が多い場合、売却や銀行融資を含む資金繰りにも時間を要するため、申告要否が不明でも棚卸しは早めに始めます。
申告要否判定の6ステップ
- 戸籍から法定相続人と基礎控除額を確認する
- プラス財産とみなし相続財産を一覧化する
- 生前贈与と相続時精算課税の履歴を確認する
- 非課税財産、債務、葬式費用を整理する
- 相続開始日時点で各財産を評価する
- 特例適用前の課税価格と申告要件を確認する
前田泰則税理士事務所では、札幌・北海道全域対応で、財産の棚卸し、不動産・自社株評価、相続税申告、納税資金の検討、事業承継まで支援します。
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相続税申告要否は、通帳に見える残高だけでは判断できません。まず財産・債務・生前贈与を一覧にし、根拠資料とともに確認することが、申告漏れと不要な不安を防ぐ近道です。
前田泰則税理士事務所は札幌・北海道全域対応で、相続財産の調査から申告要否の判定、相続税申告まで丁寧にサポートします。
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※本記事は2026年8月時点の一般的な情報です。個別の申告要否・評価額・税額を保証するものではありません。相続人、財産、贈与歴、適用する特例によって取扱いが異なるため、最新の公的情報をご確認のうえ税理士へご相談ください。
