個人事業主が確定申告で見直すべき「法人化の損益分岐点」
個人事業主として毎年の確定申告を重ねていくと、「そろそろ法人化した方が得なのでは?」という疑問が自然と浮かんできます。
法人化の損益分岐点とは、
個人事業主として事業を続けた場合と、法人化した場合とで、税金・社会保険料・手取り額の合計がほぼ同じになる利益水準のことを指します。
このラインを超えると、
- トータルの税負担が軽減される
- 銀行融資が受けやすくなる
- 事業承継の選択肢が広がる
- 社会的信用度が向上する
といったメリットが現実的になります。
特に、年間利益500万円〜1,000万円を超えてきた個人事業主の方は、法人化の損益分岐点を真剣に検討すべきタイミングです。
本記事では、2026年最新の税制・社会保険制度・インボイス制度に対応した内容で、札幌・北海道で事業を営む方に向けて、税理士の視点から法人化損益分岐点をわかりやすく解説します。
【一目でわかる】個人事業主 vs 法人|徹底比較表
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人(株式会社・合同会社) |
|---|---|---|
| 税金の種類 | 所得税(累進課税5〜45%) 住民税(10%) 個人事業税(業種による) | 法人税(中小企業:年800万円以下15%、超過部分23.2%) 地方法人税・法人住民税・法人事業税 ※2026年度は防衛特別法人税4%も実質上乗せ |
| 社会保険 | 国民健康保険+国民年金 (所得に応じて変動、上限あり) | 健康保険+厚生年金 (会社負担+個人負担、将来の年金受給額が増える) |
| 経費の範囲 | 事業に直接関連するもののみ | 役員報酬・退職金・生命保険・出張手当など幅広く認められる |
| 家族への給与 | 青色事業専従者給与 (制限あり) | 役員報酬・給与として自由度高く設計可能 |
| 赤字の繰越 | 3年間 | 10年間 (2018年4月以降開始事業年度) |
| 消費税 | 売上1,000万円超で課税事業者 インボイス登録で即課税 | 資本金1,000万円未満なら原則2年間免税 (インボイス登録すると即課税) |
| 決算公告義務 | なし | あり(官報掲載または自社サイト公開) |
| 銀行融資 | 個人の信用力に依存 | 法人決算書により評価されやすい |
| 事業承継 | 個人資産として相続 | 株式譲渡・M&Aなど選択肢が豊富 |
| 設立コスト | なし | 株式会社:約24万円 合同会社:約10万円 ※札幌市では「さっぽろ新規創業促進補助金」で一部補助あり |
| 維持コスト | ほぼなし | 法人住民税均等割(赤字でも年7万円)、税理士顧問料など |
個人事業主と法人の税金構造の違いを整理する
所得税(累進課税)vs 法人税(比例税率)のしくみ
| 課税所得金額 | 所得税率 | 法人税率(中小企業) |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 15%(年800万円以下部分) |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 同上 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 同上 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 同上 |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 23.2%(年800万円超部分) +防衛特別法人税4%(2026年度〜) |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 同上 |
| 4,000万円超 | 45% | 同上 |
※住民税(個人10%・法人約10%)は別途加算
※個人は復興特別所得税2.1%も加算
ポイント:
課税所得が900万円を超えると、個人の所得税率は33%に跳ね上がります。一方、法人税は原則23.2%(中小企業の年800万円以下部分は15%)で推移するため、利益900万円以上が法人化損益分岐点の重要な目安となります。
社会保険料の負担を忘れずに
法人化で見落としがちなのが、社会保険料の大幅な増加です。
| 年収(役員報酬) | 個人事業主 (国保+国民年金) | 法人 (健保+厚生年金) ※会社負担+個人負担 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 約60万円 | 約85万円 | +約25万円 |
| 500万円 | 約80万円 | 約142万円 | +約62万円 |
| 800万円 | 約100万円(上限) | 約227万円 | +約127万円 |
※札幌市・40歳以上・扶養なしの概算(2026年度料率想定)
ただし、法人の社会保険には大きなメリットもあります:
- 将来の厚生年金受給額が大幅に増える
- 傷病手当金・出産手当金などの保障が手厚い
- 従業員採用時の福利厚生として信頼性が高い
結論:
税金だけで判断せず、社会保険料も含めたトータルの手取り額で法人化損益分岐点を見極めることが重要です。
法人化損益分岐点のざっくりした目安
利益500万円〜1,000万円が一つのライン
業種・家族構成・役員報酬の設計によって変動しますが、一般的には、
✅ 年間の事業利益が500万円〜1,000万円
を超えると、法人化損益分岐点に差し掛かることが多いです。
特に、
- 青色申告特別控除(65万円)を使い切っている
- 所得控除を最大活用してもなお、所得税・住民税の負担感が強い
- 消費税の課税事業者になった、またはインボイス登録を求められている
という状況なら、法人化損益分岐点を具体的な数字でシミュレーションしてみる価値があります。
【2026年注目】インボイス制度・2割特例終了の影響
インボイス制度は、2023年10月にスタートし、2026年には以下の大きな変更があります:
| 項目 | 2023〜2026年9月 | 2026年10月以降 |
|---|---|---|
| 免税事業者からの仕入税額控除 | 80%控除可能 | 50%に縮小 |
| 2割特例 | 適用可能 | 廃止 |
影響:
- 取引先が法人の場合、インボイス(適格請求書)を発行できないと取引に影響が出る可能性大
- 免税事業者のままでいると、仕入税額控除が50%に減り、取引先の負担増
- 法人化+課税事業者登録を同時に検討する個人事業主が急増中
法人化の消費税メリット:
資本金1,000万円未満で法人設立すると、原則最長2年間消費税免税(ただしインボイス登録すると即課税)
札幌・北海道の事業環境を考慮した損益分岐点の見極め方
札幌・北海道では、
- 観光業(季節変動大)
- 一次産業(天候リスク)
- 建設業(公共工事の波)
- 運輸業(冬季コスト増)
など、季節性・天候に左右されやすい業種が多いのが特徴です。
そのため、
単年度の利益だけで法人化損益分岐点を判断するのは危険です。
推奨:
直近3年間の平均利益で分析し、税理士と一緒にシミュレーションすることで、より精度の高い判断が可能になります。
法人化でできる節税と資金繰りの改善
役員報酬と家族への給与で所得を分散
法人化すると、事業の利益を役員報酬や家族への給与として分散し、所得税の累進課税をコントロールしやすくなります。
例:年間利益800万円のケース
| パターン | 個人事業主 | 法人化後 |
|---|---|---|
| 構造 | 利益800万円すべてに所得税 | 代表者役員報酬500万円 配偶者給与200万円 法人に残る利益100万円 |
| 所得税・住民税 | 約180万円 | 代表者:約70万円 配偶者:約10万円 法人税等:約15万円 合計:約95万円 |
| 差額 | — | ▲85万円の節税 |
※概算・控除等は標準的なケースを想定
ポイント:
税務上認められる「相当な対価」の範囲に収める必要があり、税理士の助言が欠かせません。
退職金・生命保険・倒産防止共済の活用
法人になると、
- 役員退職金の準備(所得税の退職所得控除で大幅節税)
- 生命保険の活用(一部損金算入可能)
- 中小企業倒産防止共済(掛金全額損金、最大800万円まで積立可能)
といった選択肢が広がり、将来を見据えた節税+資金繰り対策が可能になります。
銀行融資と信用力の面からみた法人化損益分岐点
決算書の見せ方で変わる銀行の評価
銀行融資の現場では、
- 個人事業主:確定申告書(形式がバラバラ、比較しづらい)
- 法人:決算書(形式統一、過去の蓄積が評価されやすい)
という違いがあります。
札幌・北海道の地銀・信金では、地域の中小企業と長く付き合うスタイルが一般的で、決算書の蓄積と事業の見える化が重要視されます。
法人化損益分岐点を超えた利益水準であれば、法人決算としてしっかり数字を残すことで、
- 銀行融資が受けやすくなる
- 資金繰りの安定につながる
- 設備投資・新規事業への挑戦がしやすい
といったメリットが現実的になります。
将来の事業承継を見据えた法人化損益分岐点
個人から法人へ「事業」を引き継ぐという発想
個人事業主のままだと、事業用の資産や取引関係がすべて個人に紐づく形になります。
一方、法人化すると、「会社」という箱に事業をまとめることができ、
- 親族内承継
- 従業員承継
- 第三者承継(M&A)
といった将来の事業承継の選択肢が現実的になります。
利益が法人化損益分岐点を超え、継続性のあるビジネスモデルになってきたら、事業承継の観点から法人化を検討するのも一つの選択肢です。
札幌市の法人化支援制度を活用する
【2026年度】さっぽろ新規創業促進補助金
- 対象:札幌市の特定創業支援等事業を修了し、法人登記を行った方
- 補助額:
- 株式会社:75,000円
- 合同会社:30,000円
- 期間:2025年4月1日〜2026年3月31日
その他の支援情報:
まとめ
自分だけで判断しないことが最大のリスク回避
インターネット上には、法人化損益分岐点に関するさまざまな情報がありますが、
- 家族構成
- 事業内容
- 銀行融資の状況
- 将来の事業計画
によって最適な答えは大きく変わります。
税理士として現場を見ていると、
「もっと早く法人化しておけばよかった…」
「勢いで法人化したら資金繰りが苦しくなった…」
といった声を聞くことも少なくありません。
だからこそ、税理士と一緒に数字をもとに判断することが、最大のリスク回避策になります。
前田泰則税理士事務所のサポート内容
当事務所では、次のような流れで法人化損益分岐点を一緒に確認していきます。
- 過去3年分の確定申告書・元帳をもとに利益水準を分析
- 個人事業主として継続した場合 vs 法人化した場合の税額・社会保険・手取りを比較
- 銀行融資・設備投資・事業承継の予定を踏まえた中期シミュレーション
- 税務顧問契約後の月次試算表・資金繰り表の作成支援
札幌をはじめ北海道全域で支援しており、オンラインにも対応しています。
中小企業の成長ステージに合わせて、法人化のタイミングを一緒に考えていきましょう。
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まずは現在の状況とお悩みをお聞かせください。
※本記事の内容は、2026年2月時点の税制・社会保険制度に基づく一般的な情報提供であり、個別の状況に応じて最適な判断は異なります。
※具体的な方針決定は、必ず専門家との個別相談のうえで行ってください。
※税制改正により内容が変更される場合があります。最新情報は国税庁・中小企業庁等の公式サイトをご確認ください。
