会社設立後の社会保険料負担シミュレーション
「会社を設立したのに、なぜか手元のお金がどんどん減っていく……」
会社設立直後の経営者が口をそろえて感じる、あの漠然とした不安。
その正体のひとつが、社会保険料負担です。
売上が立ち上がる前から、家賃や通信費と並んで毎月確実に発生するこの固定費を、設立前に「数字」で把握している経営者は、実は多くありません。
この記事では、協会けんぽ北海道・令和8年度(2026年度)の公式料額表をもとに、役員報酬20万円・30万円・50万円それぞれの「本人負担」「会社負担」「年間総額」を一覧表でわかりやすく比較します。
数字を先に知っておくだけで、経営判断の精度は大きく変わります。ぜひ最後までお読みください。
会社設立後に社会保険料が重要になる理由
法人は役員1名でも加入対象になりやすい
日本年金機構は、すべての法人事業所(事業主のみの場合を含む)を健康保険・厚生年金保険の適用対象と案内しています。つまり、従業員がいなくても、代表者に役員報酬を設定した時点で社会保険の検討が必要になります。
「自分一人の会社だから関係ない」と思っていると、設立後すぐに納付書が届いて驚くケースが後を絶ちません。社会保険料負担を見込まずに報酬額だけを先に決めてしまうと、毎月の資金繰りが想定より苦しくなります。
📌 参照: 日本年金機構「適用事業所と被保険者」
固定費として毎月・確実に効いてくる
社会保険料は、家賃や人件費と同様に毎月発生する固定費です。しかも会社と本人が折半する項目が多く、さらに事業主のみが負担する「子ども・子育て拠出金」も加わります。
利益が出てから考えるのでは遅く、設立時点で社会保険料負担を具体的な数字で把握しておくことが、決算対策や事業承継の土台にもつながります。
北海道・札幌で押さえたい保険料率の最新数値(令和8年度)
協会けんぽ北海道の令和8年度料率
協会けんぽ北海道の令和8年度保険料率は以下のとおりです。
(協会けんぽ北海道 令和8年度保険料額表(公式PDF))
| 保険の種類 | 料率 | 適用開始 | 負担者 |
|---|---|---|---|
| 健康保険料 | 10.28% | 令和8年3月分(4月納付)から | 会社・本人 折半 |
| 介護保険料(40〜64歳) | 1.62% | 令和8年3月分(4月納付)から | 会社・本人 折半 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 令和8年4月分(5月納付)から | 会社・本人 折半 |
| 厚生年金保険料 | 18.3%(固定) | 平成29年9月分から固定 | 会社・本人 折半 |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 令和2年4月分から(令和8年度据え置き) | 会社のみ全額 |
⚠️ 適用タイミングに注意:健康保険料率・介護保険料率の改定は「令和8年3月分(4月納付分)」から、子ども・子育て支援金の徴収は「令和8年4月分(5月納付分)」から開始です。同じ年度改定でも1ヶ月ズレがあります。
令和8年度から始まった「子ども・子育て支援金」とは
令和8年4月から、医療保険に上乗せする形で「子ども・子育て支援金」の徴収が始まりました。協会けんぽの令和8年度支援金率は0.23%(会社・本人が各0.115%ずつ折半)です。
一方、以前から存在する「子ども・子育て拠出金(0.36%)」は会社が全額負担するもので、今回の支援金とは別の制度です。この2つを混同しないよう注意が必要です。
| 項目 | 子ども・子育て支援金 | 子ども・子育て拠出金 |
|---|---|---|
| 開始時期 | 令和8年4月分(新設) | 令和2年4月分から(継続) |
| 料率 | 0.23% | 0.36% |
| 負担者 | 会社・本人 折半 | 会社のみ全額 |
| 計算基礎 | 健康保険の標準報酬月額 | 厚生年金の標準報酬月額 |
社会保険料負担シミュレーションの前提条件
試算条件
- 対象:法人代表者1名(役員報酬のみ、賞与なし)
- 保険料表:協会けんぽ北海道・令和8年度 公式料額表準拠
- 標準報酬月額:役員報酬額と同額で試算
- 子ども・子育て支援金(0.23%):令和8年4月分から適用
- 子ども・子育て拠出金(0.36%):厚生年金の標準報酬月額に乗じる
- 端数処理:公式料額表の掲載金額をそのまま使用
注意:健康保険組合に加入している場合、賞与がある場合、標準報酬月額の決定に特殊な事情がある場合は金額が変わります。実務上の確定額は個別にご確認ください。
会社負担と本人負担は分けて把握する
経営者が見落としやすいのが「会社側の負担」です。給与明細に表示される「本人負担」は社会保険料全体の半分に過ぎません。残りの半分(+拠出金)は会社の法定福利費として計上されます。
銀行融資の審査や月次の資金繰り管理では、会社負担分まで含めた損益計画が求められます。
【比較一覧表】役員報酬別・社会保険料負担シミュレーション(令和8年度)
▼ 40歳未満の場合
| 項目 | 報酬 20万円 | 報酬 30万円 | 報酬 50万円 |
|---|---|---|---|
| 健康保険料(本人) | 10,280円 | 15,420円 | 25,700円 |
| 子ども・子育て支援金(本人) | 230円 | 345円 | 575円 |
| 厚生年金保険料(本人) | 18,300円 | 27,450円 | 45,750円 |
| 本人負担 合計 | 28,810円 | 43,215円 | 72,025円 |
| 健康保険料(会社) | 10,280円 | 15,420円 | 25,700円 |
| 子ども・子育て支援金(会社) | 230円 | 345円 | 575円 |
| 厚生年金保険料(会社) | 18,300円 | 27,450円 | 45,750円 |
| 子ども・子育て拠出金(会社のみ) | 720円 | 1,080円 | 1,800円 |
| 会社負担 合計 | 29,530円 | 44,295円 | 73,825円 |
| 月間総負担額(会社+本人) | 58,340円 | 87,510円 | 145,850円 |
| 年間総負担額(会社+本人) | 約70.0万円 | 約105.0万円 | 約175.0万円 |
| うち会社負担の年間総額 | 約35.4万円 | 約53.2万円 | 約88.6万円 |
※子ども・子育て支援金(0.23%)は令和8年4月分(5月納付分)から適用。3月分までは健康保険料のみの折半。
▼ 40歳以上64歳以下(介護保険第2号被保険者)の場合
| 項目 | 報酬 20万円 | 報酬 30万円 | 報酬 50万円 |
|---|---|---|---|
| 健康保険+介護保険(本人) | 11,900円 | 17,850円 | 29,750円 |
| 子ども・子育て支援金(本人) | 230円 | 345円 | 575円 |
| 厚生年金保険料(本人) | 18,300円 | 27,450円 | 45,750円 |
| 本人負担 合計 | 30,430円 | 45,645円 | 76,075円 |
| 健康保険+介護保険(会社) | 11,900円 | 17,850円 | 29,750円 |
| 子ども・子育て支援金(会社) | 230円 | 345円 | 575円 |
| 厚生年金保険料(会社) | 18,300円 | 27,450円 | 45,750円 |
| 子ども・子育て拠出金(会社のみ) | 720円 | 1,080円 | 1,800円 |
| 会社負担 合計 | 31,150円 | 46,725円 | 77,875円 |
| 月間総負担額(会社+本人) | 61,580円 | 92,370円 | 153,950円 |
| 年間総負担額(会社+本人) | 約73.9万円 | 約110.8万円 | 約184.7万円 |
| うち会社負担の年間総額 | 約37.4万円 | 約56.1万円 | 約93.5万円 |
役員報酬20万円のシミュレーション詳細
40歳未満の目安
標準報酬月額20万円では、本人負担の合計は月28,810円です。健康保険10,280円、子ども・子育て支援金230円(4月分から)、厚生年金18,300円の合計となります。
会社負担は月29,530円(うち拠出金720円が会社の追加負担)。月間の会社・本人合計は58,340円、年間では約70万円の社会保険料が発生します。
「報酬20万円なら月30万円もあれば余裕」と考えていた方が、実際には社会保険料だけで年間35万円超の法定福利費が発生すると知ると、資金計画を見直すケースは少なくありません。
40歳以上64歳以下の目安
介護保険第2号被保険者(40〜64歳)に該当すると、健康保険と介護保険を合算した料率が11.90%に上がります。本人負担は月30,430円、会社負担は月31,150円、月間合計61,580円です。
設立初年度だけでも、会社分の法定福利費は年間約37.4万円に達します。役員報酬20万円でもこの水準であることを、資金繰り表に落とし込んでおくことが不可欠です。
役員報酬30万円のシミュレーション詳細
40歳未満の目安
標準報酬月額30万円では、本人負担が月43,215円(健康保険15,420円+支援金345円+厚生年金27,450円)、会社負担が月44,295円(+拠出金1,080円)となります。
月30万円の報酬は「生活できる最低ライン」と設定する経営者が多いですが、社会保険料の月間総額は87,510円。会社が年間に負担する法定福利費は約53.2万円に上ります。
報酬設計は「手取りベース」だけで考えると必ず後悔します。税務顧問の現場では、「税引き後の手取り」「会社負担の社会保険料」「法人税等の概算」を同時に試算することを強くお勧めしています。
40歳以上64歳以下の目安
介護保険対象となると、本人負担は月45,645円、会社負担は月46,725円に増加します。月間総額は92,370円、会社負担の年間総額は約56.1万円です。
「報酬30万円でも会社の法定福利費が年間56万円」という現実は、赤字スタートや売上立ち上がり期の事業計画に大きく影響します。
役員報酬50万円のシミュレーション詳細
40歳未満の目安
標準報酬月額50万円では、本人負担が月72,025円(健康保険25,700円+支援金575円+厚生年金45,750円)、会社負担が月73,825円(+拠出金1,800円)となります。
月間の会社・本人合計は145,850円、年間総額は約175万円。会社負担だけでも年間約88.6万円という数字は、創業期の会社には決して軽くありません。
役員報酬を高めに設定すると所得税・住民税の節税効果がある反面、社会保険料が固定費として重くのしかかります。「節税のために報酬を上げる」判断は、社会保険料の増加とセットで検討する必要があります。
40歳以上64歳以下の目安
介護保険対象の場合、本人負担は月76,075円、会社負担は月77,875円、月間合計は153,950円です。会社負担の年間総額は約93.5万円に達します。
銀行融資の返済が月5〜10万円あるケースでは、社会保険料と返済額だけで月18万円超の固定支出になる計算です。融資前の事業計画に、必ずこの数字を組み込んでください。
資金繰り・銀行融資・決算対策との関係
社会保険料は融資返済と並ぶ固定支出
社会保険料は、売上がゼロの月でも基本的に発生します。そのため創業融資や運転資金の申請時は、家賃・給与・融資返済額と並べて、社会保険料負担を資金繰り表に明記することが重要です。
「社会保険を甘く見積もった」ことで通帳残高の減りが予想より早くなり、追加融資の判断が遅れるケースは珍しくありません。数字を先に把握しておくだけで、そのリスクは大きく下がります。
決算対策は役員報酬変更のルールも踏まえる
役員報酬は、原則として期中に自由に変更できません(定時改定・臨時改定の要件を満たす場合を除く)。だからこそ、設立時点で「税金・社会保険・手取り・資金繰り」を一体で設計することが不可欠です。
決算対策として報酬を増やす・減らすといった判断を後からしようとすると、損金不算入リスクや社会保険料の急激な増減が生じます。税理士と相談のうえ、最初から継続可能な水準を設定するのが、北海道の中小企業経営者にとって最も安全な選択です。
失敗しない役員報酬設計の進め方
ステップ1:3パターンの報酬で試算する
まず「20万円・30万円・50万円」など複数パターンで以下の3点を比較します。
- 本人の月間手取り(報酬 − 本人負担社会保険料 − 源泉所得税)
- 会社の月間法定福利費(会社負担社会保険料 + 拠出金)
- 年間の社会保険料総額(会社負担 + 本人負担)
この3つを同時に見ることで、「手取りは確保しつつ、会社資金が持続できる報酬水準」が見えてきます。
ステップ2:銀行融資・決算を見据えた資金繰り計画に落とし込む
社会保険料の試算が出たら、月次の資金繰り表(入金・出金の一覧)に組み込みます。特に創業初年度は売上の見通しが不確かなため、固定費の洗い出しが経営安定の鍵になります。
- 関連記事:「会社設立時の役員報酬の決め方」
- 関連記事:「銀行融資を見据えた資金繰り計画の作り方」
- 関連記事:「設立初年度の決算対策の基本」
ステップ3:設立直後に専門家と確認する
社会保険は、資格取得届・適用事業所の届出・被扶養者の確認など、設立後すぐに動く手続きが複数あります。手続きの遅れは遡及保険料の発生につながることもあるため、設立と同時期に税理士・社労士へ相談することをおすすめします。
まとめ:社会保険料は「設立前」に数字で把握する
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 法人は1名でも加入対象 | 役員報酬を設定した時点で手続きが必要 |
| 令和8年度の北海道料率 | 健保10.28%・介護1.62%・支援金0.23%・厚年18.3%・拠出金0.36% |
| 支援金の開始タイミング | 令和8年4月分(5月納付分)から。健保改定より1ヶ月遅い |
| 会社負担を忘れずに | 本人負担の半分+拠出金が毎月の法定福利費に |
| 年間では想像以上の金額 | 20万円でも年間35万円超/50万円なら年間88万円超(会社分のみ) |
| 決算対策との連動 | 役員報酬は期中変更不可。設立時に一体で設計を |
お気軽にご相談ください
「社会保険料の試算、どこから始めたらいいかわからない」
「役員報酬をいくらに設定すれば会社も自分も苦しくならないか知りたい」
「銀行融資の申請前に、資金繰り計画を一度プロに見てもらいたい」
前田泰則税理士事務所は、札幌を拠点に北海道全域の中小企業・経営者を支援しています。会社設立後の社会保険料・役員報酬・資金繰り・銀行融資・決算対策まで、設立初年度の不安を数字で見える化するトータルサポートを提供しています。
「何から聞けばいいかわからない」という段階でも、まず一度ご相談ください。数字に落とし込むほど、経営判断はぶれにくくなります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事情により取扱いが異なります。最終判断は最新の公的資料および個別相談に基づいて行ってください。(令和8年3月時点の情報)
